九州大学韓国研究センター10周年 松原孝俊教授の情熱とvisionで世界の韓国研究の中心に
18日、九州大学の韓国研究センターの開設10周年記念式典・シンポジウムに出席して、お祝いの挨拶をした。
今でこそ、慶應大学、東京大学にも現代韓国研究センターがあるが、実は、この九州大学に日本で初の韓国研究を専門に行うセンターが2000年に設立された。そのきっかけは、1998年韓国の国務総理であったキム・ジョンピル韓国国務総理(当時)が九州大学の名誉博士学位を受けられる際の特別講演「韓日関係の過去と未来」。その後、韓国国際交流財団からの支援もいただいて、設立・運営されてきた。
さらに、2005年には、UCLA Center for Korean Studies のJohn Duncan教授と協力し、環太平洋の8ヶ国の大学の韓国研究センターのコンソーシアムを立ち上げ、現在では、Oxfordなどヨーロッパの大学も入り、12ヶ国の世界韓国研究コンソーシアムの中心的存在となっている。九州の経済界からも強い支持を受けていて、福岡・釜山フォーラムと協働して地域連携の研究なども行っている。
記念式典・シンポジウムには、世界韓国研究コンソーシアムの議長を務めておられるDancan教授、姜尚中 東大現代韓国研究センター長、小此木政夫 慶應義塾大学現代韓国研究センター長なども参加し、このセンターが国内外の韓国研究のハブとして機能していることを印象付けた。また、福岡・釜山フォーラムの日本側議長を努められる石原進JR九州会長、川崎隆生西日本新聞社長など九州経済界からもハイレベルの出席があり、本センターへの期待の高さも伺わせた。
九州大学韓国研究センターが、いかに有意義な活動を展開し、世界の韓国研究の中心的拠点になっているかは、Duncan教授が、お祝いの挨拶で端的に語っていた。2004年まで同教授のところには日本の韓国研究者からは全く連絡がなかったが、その年、このセンターの松原孝俊教授などから訪問したいと連絡があり、訪問した松原教授らが語ったのは韓国研究のコンソーシアムvision。アジア太平洋地域の次世代の韓国研究者を集め、連帯のつながりを築くという大変印象的なものだった。翌年Duncan教授は九州大学に客員教授として来訪し、韓国研究センターの質の高さ、教員・学生のコミットメントの強さに感銘を受けた。さらに、世界韓国研究コンソーシアム(第一段階はアジア太平洋地域の8大学のコンソーシアム)の立上げまで協力してしまった。その年には早速コンソーシアムが大学院生対象に第一回のワークショップを開催、参加した若手の間の連帯の絆と友情は今もって脈々と続いている。その後、ヨーロッパの大学も呼び込み12大学の世界コンソーシアムとなった。分野も当初は人文科学中心だったものが、社会科学も大いに入ってきた。大学院生がワークショップに出すペーパーの質もぐんぐん向上、世界の一流大学のPhD級だ。この5年間Duncan教授の学究生活は大変充実していたが、松原教授のvisionと勤勉がなければ、そうはならなかっただろう。九州大学韓国研究センターには、韓国研究の国際化、グローバル化を牽引していってほしい。
松原センター長は、センター設立時から一貫してセンターの専任研究者を努めてきて、本年4月第3代センター長に就任。本日の式典では、センターの次の10年は東アジア共同体の形成に寄与するのを主題として掲げた。シンポジウムも、日韓は東アジア共同体の形成にどう寄与するかということ。
シンポジウムでの議論をまとめると次のようなことでしょうか。
・民主化した韓国は、アジア諸国の中で日本にとっての真のパートナー。東アジア共同体を形成するのは日本だけでやるのでなく、韓国と協力して進めること。
・その際、ASEAN諸国も見ながら進まなければならない。また、日韓両国は米国との関係抜きにはやっていけないが、だからといって、「日韓米」対「中朝」というような新たな冷戦構造を作ってはならない。東アジア共同体は、中国とも、ともに作るという覚悟が必要。
・東アジア共同体は国ベースのものよりは個人ベースのものではないか。国境という線を越えて面的広がりでやっていくもの。まずは日韓両国民が互いに親近感を持つこと。これがなければ共同体はない。日韓関係で一番変わったのは、日本人の韓国に対する意識。学生交流などはさらに意識を変えていくのに有効。
シンポジウムの中で、Duncan教授は、九大に客員教授で来たときに、学生の態度が、大人とは違う開かれた心を持ってたことに感銘を受けたとしていた。さらに、日韓関係の将来は、若者たちにかかっている。彼らを教育する自分たちの役割も考え直さねばと言っていたのが印象的。また、キム・ジョンピル元韓国国務総理は九州大学での特別講演で、若者にこう呼びかけている。「韓日両国の青年は正直な歴史認識の土台の上に、お互いを真に理解し、真の友情と信頼を築いていかねばなりません。」大学間交流は、グローバル人材の育成、大学の国際競争力強化という狙いがあることは事実だし、そのために有効かつ不可欠の方策であるが、それだけでなく、日本と近隣諸国の間の未来志向の、これからを担う若者たちの間の友情と信頼(それがなければ国の間の友好関係もない)を築くというきわめて重要な役割があることを改めて銘記した日でした。
そして何よりも、九州大学韓国研究センターが内外の研究者はもとより地元経済からも高く評価されているのは、一貫してセンター専任で勤めてこられた松原孝俊教授の情熱とコミットメントの賜物だと思う。一層の発展をお祈りします。
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九州大学にも韓国研究センターがあるんだから、韓国の小説、評論などを翻訳して一般市民に開放してほしい。
象牙の塔に閉じこもることなく、広く一般市民へ輪を広げていってほしい。
他大学に比して、九大は内向きが目立つと思う。
一般市民からは、早慶、旧帝大の中でも一番閉鎖的、旧態依然の大学だと見られている。
投稿: | 2014年7月 6日 (日) 19時14分