11月24日、ASEAN+3教育関係高級事務レベル会合の前日、AUN (ASEAN University Network) Nantana事務局長を往訪し、AUNの最近の質保証に関する活動について意見交換。
Nantana事務局長、リンクの写真はキリッとした感じですが、物腰柔らかな方です。タイのチュラロンコン大学の生物系の先生で、現在は週の半分までということでAUN事務局長職にあるそうです。したがって、大学では授業ももち、また自分の研究室の院生の論文指導もしなくちゃいけないけど、AUN事務局長の仕事は半分のワークロードじゃ終わらないと、嬉しい悲鳴をあげてました。
以下のことが興味深かったです。
・AUNでは、2004年にQA guideline、2006年にQA Manualを作った。これには、JAIF(日本・ASEAN統合基金)からの支援を使っている。これらは、学位プログラム単位での評価を行うためのもの。評価の際に使う記入票や、質問例なども入ったもの。内容については、作成時は、欧州からの指導を得た。
・このマニュアルは英語で作ったが、その後、それぞれ申し出により、中国語訳、ベトナム語訳が作られている。中国語訳作成は雲南大学ががんばった。
・同マニュアルに基づいて、2007年から学位プログラム単位で実際の評価を行ってきている。これはAUN加盟大学の特定の学位プログラムを対象としたもので、評価を受ける大学からの自発的申し出によって行う。(1大学あたり数プログラム程度)
・評価者としては加盟大学からの25人の評価者のプールを作っている、その中から適宜選び出して、個別具体の評価に当たっている。25人のうち7人はseniorで、欧州との間で評価での協働なども日常的に行っている人。
・これまでに13大学で評価を行った。最近行っている評価では、職業(資格)との関係が近い学位プログラムに重点を置いている。たとえば、工学、経済、経営など。例えば、2010年10月にインドネシア大学で行った評価では、建築、電子工学、化学工学、冶金・金属工学の4プログラムについてについて。2009年12月にベトナム国家大学ホーチミンシティ校で行った評価では、コンピューター科学・工学、情報技術、エレクトロニクス・通信の3つのプログラムについて。2009年10月にインドネシア ガジャマダ大学で行った評価では、薬理科学、化学、医学教育について。評価者は他の国の大学から。
・学位プログラム単位での評価については、今後、評価のやり方などが国際的に見てどうかのベンチマークを行っていく。このため、来年からDAADドイツ学術交流会と協力を開始する。
・QA guideline, manualの初版は欧州に学んだものであるが、これまで行った評価からの教訓などを反映すべく、改訂していく。
・学位プログラム単位での評価に加えて、大学全体についての評価(institutinal assessment)もやれるようにしていく。これに関しては、欧州ではEuropean University Associationが取り組んでいる。同associationは欧州の500以上の大学からなるもの。institutional assessmentには、元学長級の評価者でやっているらしい。
・評価に関しては、他に、評価者の訓練を行っている。比較的進んでいる国の評価者が、遅れている国に出かけていって指導する。 (日本の評価者も参加させてもらえるか聞いたところ、大歓迎とのこと)
・評価は何について行うかといえば、単純で、教育の質が改善されているかだ。
と、まぁ、こういうことで、まずは、いくつかの学位プログラムについて試行しながら、マニュアルなどの有効性も確認し、人材も育てながら、学位プログラム単位の評価をきちんとやれるようにしていってる。そもそもAUN加盟大学はASEAN各国の旗艦級大学だし、評価しているのも1大学あたり数プログラムだから、ASEAN全体での学位プログラム数から見ればほんの一部だろうが、しっかりやろうとしていることには脱帽。
日本では、従来から各大学は自己点検・評価をその結果を公表するよう求められいたが、2004年からはそれに加えて、各大学・短大・高専は7年に1度、文科省から認証された機関(現在4機関が認証されています。)から評価を受けその結果を公表することとなっている。
2004年から始まった認証機関による評価は今年度で第1サイクルが終了。そのような状況で、11月29日の中教審 大学分科会 質保証部会では、4つの認証機関からこれまでと今後の課題についてヒアリングし、ディスカッションを行った。その中で複数の委員から学位プログラムについての評価の必要性が指摘された。
これは実は、大変重要な一歩。というのは、これまでの認証機関による評価は大学全体についてのものであったが、これから東アジア地域で大学間交流、とくに単位互換を含む交換留学、ダブルディグリーなどを行っていくようになると、送り出し側、受け入れ側の学位プログラムの質がかならず問われます。東南アジアでは試行ではあれ学位プログラム単位の評価が進んでいるのに、日本ではほとんど議論の俎上にすら上がらず、いいのかなぁと心配していたからだ。
今年6月にインドネシア大学を訪問し質保証活動についてディスカッションした際、先方の説明はまず「学位プログラムがいくつあります」というところから始まり、ガツーンとショックを受けたものでした。また、インドネシアの質保証機関BAN-PTでは、すごい勢いで学位プログラム単位の評価を行っていこうとしていた。
これから学位プログラム単位の評価に取り組んでいくには、東アジアの大学でどうやっているのか、日本の評価者も現地に学びに行くといいと思う。
AUNの質保証関連活動については、AUNのAnnual Report 2009-10(18ページから20ページ)にわかりやすく書かれている。とにかくこのAnnual Reportは出色の出来です。質保証のところだけでなく、全体を是非ご覧になることお勧め。