グローバル人材育成には、行動するとき
経団連のサンライズ・レポートを待つまでもなく、このところ、「グローバル人材」を育成せねば、確保せねばという声を聞かない日はない。
では、「グローバル人材」とは、どういう人材なのか。一昔前は英語が流暢なのがグローバル人材というようなsuperficialな見方もあったが、それは的外れだ。実は、グローバル人材育成の必要性に気付き、そのためにどうするかを検討した、産学人材育成パートナーシップのグローバル人材育成委員会では、その議論をする中で、グローバル人材とは何かを明らかにしている。まずは、それをご紹介したい。
その前に、このグローバル人材育成委員会だが、大学、産業界から、組織代表とか、業界代表的な人選ではなく、白木三秀早稲田大学 政治経済学術院教授を委員長に、本当にこの問題に危機感を持ったり、自身でいろいろな実践の経験もある人で構成されている。(資料) 従って、5ヶ月弱にわたる議論も毎回しっかりかみ合い、大学人と産業界の人はきちんと話し合いができることを示せた点でも画期的だったと思う。この委員会のメンバーとなった産業界と大学人との間で教育連携が実際に行われだした例もある。
さて、そのグローバル人材委員会の提唱する「グローバル人材」だが、報告書概要の6ページにあるが、異なる文化的バックグラウンド、価値観を持つ人を理解し、受容し、さらにかれらと協働して新しい価値を作り出していける人材ということだ。語学はこのための手段でしかない。
よく、グローバル人材にはコミュニケーション力が必要と言われる。その通りだ。だけど、注意しなくてはいけないのは、「コミュニケーション」ということの意味だ。日本では、どううも、superficialに捉えられがちではないかと危惧する。つまり、コミュニケーションとは、外国語で言いたいことを伝え、向こうの言っていることがわかるだけでなく、気持ちを一つにできるという境地までを含むものだ。communicate よく見ると、uni が入っている。ラテン語形では、uni は「一つ」を表す。コミュニケーション力には、単に、言える、わかるではまだ足らなくて、(異文化の人と)一つの合意なり、見解なりに至れるところまでが求められていると考えるべきだ。
この「グローバル人材」の定義だが、一点、明記してなかったことがある。グローバル人材委員会で議論したときには、暗黙の了解であったためか、「グローバル人材」とは、そもそも自分が生まれ育った国、文化、価値観に誇りを持ち、そのことを異文化の人にはっきり言えるということを、報告書では明記していなかった。むしろ異文化の人と触れ合うことで、自らの文化に対する見方もより本質的になり、何を誇りに思うかもより主体的に考えられるようになる。
この点は、1月20日に開催された、産学連携によるグローバル人材育成推進会議(第2回)での、新波剛史ローソン社長、谷内正太郎東京電力顧問(元外務事務次官)から、ご指摘いただいた。その通りである。外国で暮らすと、友人などから、日本の何が誇りかといったことは必ず聞かれる。そのときに期待されているのは日本文化評論家や日本analystの言うようなことではない。一人の日本人として、自分は何が誇りと考えるかを言うことだろう。十人十色で構わないし、むしろそうあるべきだ。みんながみんな同じことを言うと、思想統制でもしているのかと思われるのが落ちだ。とにかく、「日本の何を誇りますか」、この問いに自分の考えをストレートに言えないと、外国では、いくら専門分野で能力があろうと、つまらない人間、相手にしてもしょうがないと受け取られる。
だからこそ、遅くとも大学時代までには、実際に外国に出て行って、自分を異文化の中に置いて、日本を見つめなおす気持ち、目線を持ってもらうことを、多くの(理想的にはすべての)学生ができるようにしていくことが重要だ。
その下地作りという関係で、高校までの英語と歴史の教育について思うことがある。
まず、英語であるが、23年度からは小学校5,6年から始まるわけだが、とにかく日本人以外の人と英語で話して、多少間違っていようが、伝わるんだという喜びを味わえるようにすることだと思う。この喜びを味わえば、どんどん勉強する意欲もわくのではないか。Skypeでいくらだって、外国の学校の同年代の児童生徒と話す手段はある。また、日本各地の大学にいる留学生も英語教育にとっての潜在的な資源かもしれない。商社に勤めた方々などで作られたNPO法人国際社会貢献センターでは、すでに小中高校での国際理解教育への講師派遣などの支援を行ってくださっている。
歴史についてだが、現代からさかのぼりで、日本と世界との関係を教えるようにしてほしい。多くの生徒にとって、日本史と世界史を分けることに意味があるのだろうか? 保元・平治の乱の年号とか、だれとだれが戦ったかを覚えることにいかなる意味があるのだろうか。それより、優先度が高いのは、今アジアで何が起こっているか、太平洋戦争に至る過程はなんだったのか、その中で日本とアジア諸国の間には何があったのか、日本の戦後の復興などを学ぶようにすることが重要ではないか。また、歴代将軍を覚えるよりも、日本が世界に誇れる現在の人材(たとえば、緒方貞子さん)の生き様を学ぶほうが重要ではないか。次のフェーズとして、世界4大文明発祥からの大きな流れは、黄河文明を題材に東アジア地域の大きな流れを学ぶ。統治体制の変遷だけでなく、人口の動向、これまでの歴史上のイノベーション、経済の発展、産業の変化、地球的・地域的課題の発生など、これからの地球市民の基礎知識を教えるように。その上で、日本でも世界でも個別の事項をさらに勉強したい生徒は勉強できるようにすべきではと考える。
グローバル人材委員会の報告書には、産学官で日本人の送り出し支援をはじめ、何をなすべきかも書かれている。(報告書概要では、8-12ページ) 経団連のサンライズレポート、経済同友会の2020年の日本創生 -若者が輝き、世界が期待する国へ-でも、企業側でも動くとしている。それぞれが連携しつつ動く時だ。私たちは産学連携によるグローバル人材育成推進会議で3月末までに、戦略的方向性を示していただきますが、もうそれ以上の紙はいいでしょう。 動きながらレビューして、規模拡大なりsophisticationなどしていけばいいと思う。
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