京都大学-ASEAN大学連合 初のワークショップ
3月8-9日、タイ バンコクで、京都大学-ASEAN大学連合(AUN)の初めてのワークショップ「協働と交流による学術パートナーシップの構築」が開催された。
ASEAN大学連合(AUN)については、過去に書いてことがありますので、こちらをどうぞ。
実は、京都大学は東南アジアとの関係には歴史があります。1964年に東南アジア研究所ができました。いわゆる地域研究の中心です。地域研究では一定期間現地に入って調査する必要がありますから、その拠点として、まずバンコク、ついでジャカルタに駐在員事務所が設けられました。いらい、関係の先生が交代で駐在員事務所に詰めているそうです。
京都大学とAUNは、2009年12月に、学術交流・協力の覚書を結んでおり、今回のワークショップは、(1)学生交流、(2)博士課程大学院生の共同指導、(3)持続可能な社会に向けた研究協力、の3つの点から行動計画を検討しおうというもの。AUN側からの働きかけで開催されたということです。ホストは、チュラロンコン大学(Chulalomkorn University)。タイの日系企業が支援してくださいました。トヨタ、三井住友銀行、ソージツ(双日)、ソンボ、三菱東京UFJ銀行です。ありがとございます。
初日午前中は、開会式の後、特別講演4件。午後は、上記(1)-(3)の3つのテーマについて、AUN側の大学と京都大学から何件か発表しパネルディスカッション。
開会式では、ホスト機関を引き受けてくださったチュラロンコン大学Kalaya副学長、AUNの会長で政府の高等教育委員会事務総長のSumate博士、私、それに京都大学副学長(国際関係担当)・国際センター所長の森教授の4人から挨拶。
特別講演は、
・JETROバンコク山田宗徳所長が、「グローバル化に期待される人材」
・私が、「日本の大学の国際化の課題-双方向交流の強化」
・森教授が、「京都大学の海外との交流」
・AUN事務局長のNantana博士が、「地域の大学間交流:ASEAN+3からの課題と解決策」
左から、Nantana AUN事務局長、Kalaya チュラロンコン大学副学長、森 京都大学副学長、山田JETROバンコク所長、Sumate AUN会長、私、Coltis AUN事務次長
Nantana事務局長の講演では、AUNの協力相手の説明があった。中国、韓国はそれぞれ、ASEANとの間で協力計画を持っているが、日本の場合は、工学分野でASEAN側と日本のいくつかとの大学で修士・博士の共同育成、共同研究のネットワークを作り、アジア地域の工学系の教員養成で大きな成果を挙げたSEED/Netの例はあるものの、今回のワークショップも京都大学が自発的にAUNと結んだ覚書に基づくものであり、国レベルでASEANと大学交流をどうしていくのかが見えにくい格好になっていると感じた。
また、昨年11月にブルネイで開催された、ASEAN+3の大学の国際担当部局長会議の結果の報告があった。Information, System, Quality, Financial Problems, Conpetence, External Problems, Attitudeの7つの領域で何が問題になっているかをとりまとめたもの。各国の問題にかなり共通性がある。ということは、解決策もいっしょになって考えれば、いいアイデアも出てくるだろうと思う。
私の講演の資料、話したことはこちら↓です。
「110308_KATO_Shigeharu_Kyoto_AUN.pdf」をダウンロード
「110308_AUN_Kyoto_workshop_as_delivered.doc.pdf」をダウンロード
午後の3つのパネルディスカッションにつては、特に印象に残ったことを書きます。
学生交流については、ASEANの大学も京都大学も特に、夏季などの短期プログラムについて発表がありました。インドネシアのガジャマダ大学では、夏の間の短期プログラムで、DREaMというものを行っている。これには社会起業の経験もあったり、各国からそのプログラムに参加した学生たちの間の競技や文化イベントなどもあるということ。当然、ガジャマダ大学の学生もいっしょになって参加する。こうことを発表したのは、国際担当副学長が付き添ってきた学生ボランティアで学長のお手伝いをしているMonica Yanuardaniさん。学長のお手伝いをするボランティアは10人だけですが、応募が多くて選べれるのは大変で、選ばれること自体がすごく誇りになるそうです。非常にしっかりした発表でしたが、休憩時間に聞いてみたら、学部4年だというのでびっくりしました。
ガジャマダ大学の学長のお手伝いのボランティア Monica Yanuaradaniさん
共同指導の関係では、double degree, joint degree の関係も話題になりました。京都大学の渡部由紀助教からは、共同学位を進める際の障害のひとつとして、他大学で取得した単位を移せる上限が10単位であることなどの規制もあると重要な指摘をしてくれました。国際交流を進めるためには、大学だけでなくて政府もやるべきことはやらねばならないと考えていて、単位以降の上限も検討することになっているとコメントさせていただきました。
共同研究のセッションでは、ASEANの大学側からは、シンガポール国立大学、フィリピン大学から発表がありましたが、両者とも、国の強みとの関係で大学の使命は何であるか、自分の大学の強みは何かをはっきり打ち出す説明でした。シンガポール国立大学のvision, mission statementはとても印象的でした。visionは、towards a global knowledge enterprise で、missionは、 to transform the way people think and do things through education, research and serviceです。「教育、研究、サービスを通じて、人々の考え方、物事のなし方を変えていく」、すごく自信に満ち溢れているし、社会としっくり、しっかりした関係ができているのだろうなと感じました。
このセッションでは、京都大学東南アジア研究所の河野泰之教授も発表されました。東南アジアや欧米から客員を呼んで広がりをもって研究を進めてきたこと、現地語の資料が多く収集されていて学問的価値があること、査読ジャーネルをずっと続けてきていて筆者がかなり学際的になってきていること、今後は自動的に翻訳される多言語、オンラインジャーナルを発行してこうとしていることなどでした。中身もありましたが、人間味溢れる、非常に正直、直裁なお話振りで、大変好感を持ちました。きっと各大学の代表のみなさんは東南アジア研というか河野先生にに非常に印象付けられたのではないかと思います。
2日目は、参加者が4つのテーマにわかれて議論して、それぞれの結果をもちより、行動計画までたどり着こうというものです。私は、香港でのGoing Global 2011での発表の準備などのため出られませんでしたが、一日目の状況からして、活発な議論が行われたものと推察します。
AUNは現在メンバーが20以上の大学に増えています。これを京都大学だけで相手にするのは大変でしょうし、他の大学にもAUNを通して東南アジアの大学と協力関係を拡大するのは、独自にパートナーを探したりするよりはるかに効率的なはずです。ぜひ、日本側もコンソーシアムを組むなどしていったらよいと思います。
とにもかくにも、「議論してるだけじゃなくて、実行しなければ」という強い意志をもっておられるNantana事務局長からの要請を受け、中身の濃いワークショップの開催に漕ぎ着けた京都大学の森教授、関係の先生方のご努力に心から敬意を表します。こういった経験などもグローバル30のネットワークなどを通じて広めていただき、他の大学の参考になるようにしていただければと思います。
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