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2011年3月

2011年3月14日 (月)

Going Global 2011 で、日本の高等教育の国際化をプレゼン

3月11-12日香港で開催されたBritish Council 主催の Going Global 2011 に参加しました。
Going Global は、高等教育について2年に一度の国際会議で、今回5回目。従来はロンドンで開催されていたのが、その名の通り、今回は初めて英国の外に出て香港で開催されたというものです。
70の国・地域から1000人以上が参加。その中には15人の大臣・副大臣もいらっしゃいました。

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今回のGoing Globalに合わせて、British CouncilJapanでは、日英の大学間での新しい連携・協力のあり方を探る会議を企画されて、上司の方にそれに出てもらえないかという話がまずありました。重要ではあるが国会中であるので、私が代わりに遣わされることになりました。そちらはclosedな会議です。

一方、Going Global 2011 には世界中から高等教育関係者が集まるのなら、日本の取り組みもアピールしたいですが、どうしたらいいかな? いろんなセッションを聞きに行って真っ先に質問とかコメントする(その中で日本の取り組みをアピール)ことかななどと思いながら、British Council Japanのスタッフに相談しました。2-3日のうちに、「高等教育の国際化への国としてのアプローチ」というセッションで発表してくれないかという話をいただき、即、お受けしました。

セッションは1時間。私を含めてスピーカーは3人。一人12分のプレゼン。その中で、何を伝えるか。

まずは、この数年で政策がrichになってきたこと。海外から活力を導入するという大きなパッケージの中で留学生30万人計画、その拠点整備としてのGlobal-30が出てきた。次はアジアでの質保証を伴った交流という、より具体的な重点。そして、経済活動などがグローバル化していく中で、日本人学生ももっと海外に出るようにしてグローバル化時代の人材の素養を身につけるようにする。

そして、こうなった姿というのは、いまや世界の大学間学生交流運の大きな潮流に乗ったものであるということ。昨年秋くらいからいろいろな会議に出て感じていることは、世界規模での留学生の動きというのは、昔ながらの一方的な流れ、つまり、十分なキャパシティがない途上国から先進国に学びに行くという流れではなくなっています。いわゆる途上国であっても相当程度自前で高等教育需要(少なくとも学部段階)をまかなえるようになってきた国では、むしろ母国の大学に籍を置く学生を一定期間海外の大学に送り、異文化を体験させることを主にした交流をさせたがっています。また、先進国の大学でも、学生に、地球上のさまざまな状況に目を開かせ、異文化受容性などを身に付けさせるために、これまであまり留学先になっていなかったようなところに、やはり交流型で送りたいという、「双方向、異文化体験重視型」の学生交流が主流になっていこうとしているということです。

その際は、単位互換や、いわゆるダブルディグリー、ジョイントディグリーなどを織り込んで、異国での学ぶが正当に評価され、不利にならないようにしないといけない。これには、交流先との間で、教育の質保証について、相互理解し、単位互換などを行う枠組みを作ることが前提。制度も違う国の高等教育機関同士の間の話だから容易ではないが、お互いの制度の説明から始めてやっていかねばならない。

そして、なぜ、異文化体験が大事か。世界がグローバル化すると、ビジネスの世界では当然だし、地球的課題の解決に取り組んでいく公的あるいはNGO的な活動でも、文化的背景の異なる仲間との協働はあたりまえのことになってくるし、むしろ、多文化環境から新しい発想、価値が生まれるからです。グローバル化時代の大学の社会的責務には、異文化の仲間と協働できるように若者を育てることがあると思うのです。

文化的にはかなりhomogeneousな中で育ってきた日本の若者には、できるだけ多くが異文化との触れ合いを経験できるよう、相当意識して仕組まねばなりません。

さらにここまで来ると、巷間言われる日本の若者の「内向き志向」に触れないわけにはいきません。英語に自信がない、就活とぶつかるなどという事情はあります。そう言っても彼らのマインドセットの問題もないことはないでしょう。しかし、そのマインドセットは「失われた20年」の副産物ではないでしょうか。一方で、バングラのドラゴン桜、早稲田の税所篤快さんのようなとんがった積極的な若者もいるのです。若者は内向きだと批判しているだけではなんの解決にもなりません。

このようなことを言おうとして作った原稿は、読み上げてみると20分以上かかってしまいました。今回の出張中、空き時間を使ってどんどん枝葉を削りました。パワポはこちらです。

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そのセッションでは、他に、香港教育庁のMichelle Li次官、ケニアにあるUnited States International University  のDoreen Alusa 講師が発表し、British Council Honk Kong でglobal education を担当しているJanet Ilieva さんがchairでした。会場に行ってみたら、4人のうち男性は私だけ。Li次官は、交換留学で上智大学に来ていた経験がおありでした。

Li 次官の発表は、香港をいかにさまざまな国からの留学生にとって魅力的にするかという具体的な取り組みが主体でした。積極的なリクルート、在留資格の合理化から始まり、キャンパスの国際化、卒業後の就職支援(在留期間延長を含めて)、香港ならではの多文化体験などなどです。もともと国際性のある香港でも、日本の留学生30万人計画と同じようなことを、ここまでやっているんだなという印象でした。パワポも洗練されてました。

ケニアのAlusa さんの発表では、ケニアでは大学進学率が僅か3%、海外の大学との交流は始めつつある(広島大学はやってます)、質の悪い交流にならないよう、実質的な質保証や、きちんとした取り決めの締結などに相当気を遣っていることが印象的。とくに、最後に、10%にも満たない進学率を少しでも高めるためにも外国の大学との連携は重要と締めくくっておられたのは、アジアでの交流は第一プライオリティかもしれないが、そういう現実にも目を向け、日本が、あるいはアジアで連携して、あるいは、欧米と連携して何ができるかを常々考えていかねばと思いました。

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質疑の中では、日本からの参加者からも積極的に質問がありました。国際化を進めるには大学の教職員も変わらねばならないが具体的にどうしているのかという、香港の次官への質問でしたが、Chairが「私も何か言うか?」と囁いたので、普段から思ってる、
・教職員のマインドセット、態度を変えることが必要で、本当に国際化が進んだかは外国人学生数が増えたかというようなsuperficialな指標ではなく、マインドセット、態度が変わったかで見ないといけないと思う。Global-30の中間評価でもそこが大事だと自分は思う。
・ただ、マインドセット、態度を変えるのは簡単でない。いろいろなやりかたがある。だからこそ、いろんな国での取り組みのGood Practice やlessons learned を交換しあうことは意味あることだ
とお答えしました。

このこのセッションは、今回のGoing Global の中で2番目に人気が高かったということです。セッション終了後も何人かの方から「ぶらさがり」があり、さっそく今後の情報交換についてメールを送ってきた人もいます。日本のプレゼンスを示すということはなんとか果たせたかと思います。これから本当に重要なのは、つねにあちこちとディスカッションして、他の国のやり方に学ぶべきは学びつつ、日本の国際化戦略、プログラムをより洗練させていくことだと思います。

なお、今回のGoing Global 2011 のスピーチ、プレゼンは、Policy Review TV で見られます。Going Global 2011 全体についての目録はこちら、私のプレゼンについてはこちら。落ち着きがない話し方です。もっと場数踏まなければ。

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2011年3月10日 (木)

京都大学-ASEAN大学連合 初のワークショップ

3月8-9日、タイ バンコクで、京都大学-ASEAN大学連合(AUN)の初めてのワークショップ「協働と交流による学術パートナーシップの構築」が開催された。

ASEAN大学連合(AUN)については、過去に書いてことがありますので、こちらをどうぞ。

実は、京都大学は東南アジアとの関係には歴史があります。1964年に東南アジア研究所ができました。いわゆる地域研究の中心です。地域研究では一定期間現地に入って調査する必要がありますから、その拠点として、まずバンコク、ついでジャカルタに駐在員事務所が設けられました。いらい、関係の先生が交代で駐在員事務所に詰めているそうです。

京都大学とAUNは、2009年12月に、学術交流・協力の覚書を結んでおり、今回のワークショップは、(1)学生交流、(2)博士課程大学院生の共同指導、(3)持続可能な社会に向けた研究協力、の3つの点から行動計画を検討しおうというもの。AUN側からの働きかけで開催されたということです。ホストは、チュラロンコン大学(Chulalomkorn University)。タイの日系企業が支援してくださいました。トヨタ、三井住友銀行、ソージツ(双日)、ソンボ、三菱東京UFJ銀行です。ありがとございます。

初日午前中は、開会式の後、特別講演4件。午後は、上記(1)-(3)の3つのテーマについて、AUN側の大学と京都大学から何件か発表しパネルディスカッション。

開会式では、ホスト機関を引き受けてくださったチュラロンコン大学Kalaya副学長、AUNの会長で政府の高等教育委員会事務総長のSumate博士、私、それに京都大学副学長(国際関係担当)・国際センター所長の森教授の4人から挨拶。

特別講演は、
・JETROバンコク山田宗徳所長が、「グローバル化に期待される人材」
・私が、「日本の大学の国際化の課題-双方向交流の強化」
・森教授が、「京都大学の海外との交流」
・AUN事務局長のNantana博士が、「地域の大学間交流:ASEAN+3からの課題と解決策」

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左から、Nantana AUN事務局長、Kalaya チュラロンコン大学副学長、森 京都大学副学長、山田JETROバンコク所長、Sumate AUN会長、私、Coltis AUN事務次長

Nantana事務局長の講演では、AUNの協力相手の説明があった。中国、韓国はそれぞれ、ASEANとの間で協力計画を持っているが、日本の場合は、工学分野でASEAN側と日本のいくつかとの大学で修士・博士の共同育成、共同研究のネットワークを作り、アジア地域の工学系の教員養成で大きな成果を挙げたSEED/Netの例はあるものの、今回のワークショップも京都大学が自発的にAUNと結んだ覚書に基づくものであり、国レベルでASEANと大学交流をどうしていくのかが見えにくい格好になっていると感じた。

また、昨年11月にブルネイで開催された、ASEAN+3の大学の国際担当部局長会議の結果の報告があった。Information, System, Quality, Financial Problems, Conpetence, External Problems, Attitudeの7つの領域で何が問題になっているかをとりまとめたもの。各国の問題にかなり共通性がある。ということは、解決策もいっしょになって考えれば、いいアイデアも出てくるだろうと思う。

私の講演の資料、話したことはこちら↓です。
「110308_KATO_Shigeharu_Kyoto_AUN.pdf」をダウンロード
「110308_AUN_Kyoto_workshop_as_delivered.doc.pdf」をダウンロード


午後の3つのパネルディスカッションにつては、特に印象に残ったことを書きます。

学生交流については、ASEANの大学も京都大学も特に、夏季などの短期プログラムについて発表がありました。インドネシアのガジャマダ大学では、夏の間の短期プログラムで、DREaMというものを行っている。これには社会起業の経験もあったり、各国からそのプログラムに参加した学生たちの間の競技や文化イベントなどもあるということ。当然、ガジャマダ大学の学生もいっしょになって参加する。こうことを発表したのは、国際担当副学長が付き添ってきた学生ボランティアで学長のお手伝いをしているMonica Yanuardaniさん。学長のお手伝いをするボランティアは10人だけですが、応募が多くて選べれるのは大変で、選ばれること自体がすごく誇りになるそうです。非常にしっかりした発表でしたが、休憩時間に聞いてみたら、学部4年だというのでびっくりしました。

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ガジャマダ大学の学長のお手伝いのボランティア Monica Yanuaradaniさん

共同指導の関係では、double degree, joint degree の関係も話題になりました。京都大学の渡部由紀助教からは、共同学位を進める際の障害のひとつとして、他大学で取得した単位を移せる上限が10単位であることなどの規制もあると重要な指摘をしてくれました。国際交流を進めるためには、大学だけでなくて政府もやるべきことはやらねばならないと考えていて、単位以降の上限も検討することになっているとコメントさせていただきました。

共同研究のセッションでは、ASEANの大学側からは、シンガポール国立大学、フィリピン大学から発表がありましたが、両者とも、国の強みとの関係で大学の使命は何であるか、自分の大学の強みは何かをはっきり打ち出す説明でした。シンガポール国立大学のvision, mission statementはとても印象的でした。visionは、towards a global knowledge enterprise で、missionは、 to transform the way people think and do things through education, research and serviceです。「教育、研究、サービスを通じて、人々の考え方、物事のなし方を変えていく」、すごく自信に満ち溢れているし、社会としっくり、しっかりした関係ができているのだろうなと感じました。

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シンガポール国立大学のvision, mission

このセッションでは、京都大学東南アジア研究所の河野泰之教授も発表されました。東南アジアや欧米から客員を呼んで広がりをもって研究を進めてきたこと、現地語の資料が多く収集されていて学問的価値があること、査読ジャーネルをずっと続けてきていて筆者がかなり学際的になってきていること、今後は自動的に翻訳される多言語、オンラインジャーナルを発行してこうとしていることなどでした。中身もありましたが、人間味溢れる、非常に正直、直裁なお話振りで、大変好感を持ちました。きっと各大学の代表のみなさんは東南アジア研というか河野先生にに非常に印象付けられたのではないかと思います。

2日目は、参加者が4つのテーマにわかれて議論して、それぞれの結果をもちより、行動計画までたどり着こうというものです。私は、香港でのGoing Global 2011での発表の準備などのため出られませんでしたが、一日目の状況からして、活発な議論が行われたものと推察します。

AUNは現在メンバーが20以上の大学に増えています。これを京都大学だけで相手にするのは大変でしょうし、他の大学にもAUNを通して東南アジアの大学と協力関係を拡大するのは、独自にパートナーを探したりするよりはるかに効率的なはずです。ぜひ、日本側もコンソーシアムを組むなどしていったらよいと思います。

とにもかくにも、「議論してるだけじゃなくて、実行しなければ」という強い意志をもっておられるNantana事務局長からの要請を受け、中身の濃いワークショップの開催に漕ぎ着けた京都大学の森教授、関係の先生方のご努力に心から敬意を表します。こういった経験などもグローバル30のネットワークなどを通じて広めていただき、他の大学の参考になるようにしていただければと思います。


2011年3月 8日 (火)

フィールド調査でどこへでも、バンコクの日本人留学生

京都大学とASEAN大学ネットワークのワークショップ"Building Academic Partnership through Collaboration and Exchange"に出席するため、バンコクに来ています。

きょうは、バンコクにいる日本人留学生との懇談。京都大学東南アジア研究所駐在員事務所の星川圭介先生、今回のワークショップの準備に当たってきた京都大学エネルギー科学研究科の園部太郎先生が、声をかけて集めてくださいました。7人来てくださいました。

多くは、地域研究をしている大学院生さんで、現地調査のためにこちらに来ているということ。水上マーケットの研究をしていて、バンコクからバスで片道3時間の海辺の町から来てくれた院生さんもいます。現地では水上マーケットの家に住み込ませてもらい、寝食をともにして調査しているそうです。その他にもバンコクから離れた地方で調査されている人が多かったです。調査の計画も独力で立てて、どこでも一人で分け入っていく行動力をお持ちです。

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みなさん、博士論文の研究の全体スケジュールの中で、どのタイミングで現地調査を入れるかに苦慮されているようでした。京都大学東南アジア研究所の柴山守教授も同席してくださいましたが、昔はこれはと思う学生には、現地に数年どっぷり漬からせて研究させたものだが、最近は早く博士を取らせたい、取りたいという、教員、院生双方の意志で、じっくり現地での研究が行いにくくなっているということでした。

奨学金、とくに民間財団からの給付制のものが大きな支えになっているいう声も多く聞かれました。大学の事務の方や先輩がそういう奨学金の存在を教えてくださるそうです。日本での修士課程時代にJASSOの貸与制の奨学金を借りて、今はオーストラリア国立大の博士課程に在学しながら自ら得た収入でJASSOの奨学金を返しているという院生さんもいらっしゃいました。ちなみに、オーストラリア国立大に必要な経費は、その大学の日本人卒業生が作った奨学金をいただいているそうです。得られるのは毎年一人という価値の高い奨学金です。

なお、奨学金やその他の資金援助の関係では、いろいろと考えさせらる、次のようなご意見をいただきました。
・日本からの留学生に支給する民間財団の奨学金は、応募資格が国内にいることとしているものが多い。海外に出てしまっていると申請できない。
日本学術振興会の特別研究員制度では、支給期間のうち海外にいていい期間が半分までで厳格に運用される。海外調査が多い研究生活だと、思う存分海外調査できない。
・仕分けの影響で、GPものから海外調査に使える予算が急減している。東南アジアは単価が低いから、まだなんとか来れるが、南米・中東などには行かれなくなっている。

また、外国の大学で博士課程を修了するような形で外国に出てしまうと、欧米ならまだしも、他の地域では出た先の大学のことが国内でよく知られていないなどで、帰国後のポストの競争で不利という意見もありました。

きょうは、そもそも海外に出ているし、しかもフィールドワークなどで、どこへでもずんずん入っていく積極的な学生さんからの話でしたが、諸制度が足かせになっているところもあるのではないかと感じさせられました。もっと海外に出て行くのを促進しようとするならば、こういうところの見直しも欠かせないと感じました。

さらに、日本の国費留学生の経験を持つタイの方も一人お見えになりました。日本留学経験者がタイ社会でどう活躍しているかを調査されいるそうですが、最近の日本への留学生は、学位をとるため勉強ばかりに専念し、日本社会を知らないで帰ってきていると懸念されていました。

このように、きょうも新しい側面に目を開かれた時間でした。みなさん、お忙しい中、お越しくださりありがとうございました。

なお、今日集まった皆さんはじめ、月に一回、タイに来ている留学生で集まり、どんな活動をしているか発表し合い意見交換する、「バンコク・タイ研究会」を開いているそうです。違う分野の人から意見をもらえるのが非常に有益ということでした。そうです、違う角度から同見えるかは大変重要です。さらに発展していくことをお祈りします。


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