東アジア

2011年3月10日 (木)

京都大学-ASEAN大学連合 初のワークショップ

3月8-9日、タイ バンコクで、京都大学-ASEAN大学連合(AUN)の初めてのワークショップ「協働と交流による学術パートナーシップの構築」が開催された。

ASEAN大学連合(AUN)については、過去に書いてことがありますので、こちらをどうぞ。

実は、京都大学は東南アジアとの関係には歴史があります。1964年に東南アジア研究所ができました。いわゆる地域研究の中心です。地域研究では一定期間現地に入って調査する必要がありますから、その拠点として、まずバンコク、ついでジャカルタに駐在員事務所が設けられました。いらい、関係の先生が交代で駐在員事務所に詰めているそうです。

京都大学とAUNは、2009年12月に、学術交流・協力の覚書を結んでおり、今回のワークショップは、(1)学生交流、(2)博士課程大学院生の共同指導、(3)持続可能な社会に向けた研究協力、の3つの点から行動計画を検討しおうというもの。AUN側からの働きかけで開催されたということです。ホストは、チュラロンコン大学(Chulalomkorn University)。タイの日系企業が支援してくださいました。トヨタ、三井住友銀行、ソージツ(双日)、ソンボ、三菱東京UFJ銀行です。ありがとございます。

初日午前中は、開会式の後、特別講演4件。午後は、上記(1)-(3)の3つのテーマについて、AUN側の大学と京都大学から何件か発表しパネルディスカッション。

開会式では、ホスト機関を引き受けてくださったチュラロンコン大学Kalaya副学長、AUNの会長で政府の高等教育委員会事務総長のSumate博士、私、それに京都大学副学長(国際関係担当)・国際センター所長の森教授の4人から挨拶。

特別講演は、
・JETROバンコク山田宗徳所長が、「グローバル化に期待される人材」
・私が、「日本の大学の国際化の課題-双方向交流の強化」
・森教授が、「京都大学の海外との交流」
・AUN事務局長のNantana博士が、「地域の大学間交流:ASEAN+3からの課題と解決策」

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左から、Nantana AUN事務局長、Kalaya チュラロンコン大学副学長、森 京都大学副学長、山田JETROバンコク所長、Sumate AUN会長、私、Coltis AUN事務次長

Nantana事務局長の講演では、AUNの協力相手の説明があった。中国、韓国はそれぞれ、ASEANとの間で協力計画を持っているが、日本の場合は、工学分野でASEAN側と日本のいくつかとの大学で修士・博士の共同育成、共同研究のネットワークを作り、アジア地域の工学系の教員養成で大きな成果を挙げたSEED/Netの例はあるものの、今回のワークショップも京都大学が自発的にAUNと結んだ覚書に基づくものであり、国レベルでASEANと大学交流をどうしていくのかが見えにくい格好になっていると感じた。

また、昨年11月にブルネイで開催された、ASEAN+3の大学の国際担当部局長会議の結果の報告があった。Information, System, Quality, Financial Problems, Conpetence, External Problems, Attitudeの7つの領域で何が問題になっているかをとりまとめたもの。各国の問題にかなり共通性がある。ということは、解決策もいっしょになって考えれば、いいアイデアも出てくるだろうと思う。

私の講演の資料、話したことはこちら↓です。
「110308_KATO_Shigeharu_Kyoto_AUN.pdf」をダウンロード
「110308_AUN_Kyoto_workshop_as_delivered.doc.pdf」をダウンロード


午後の3つのパネルディスカッションにつては、特に印象に残ったことを書きます。

学生交流については、ASEANの大学も京都大学も特に、夏季などの短期プログラムについて発表がありました。インドネシアのガジャマダ大学では、夏の間の短期プログラムで、DREaMというものを行っている。これには社会起業の経験もあったり、各国からそのプログラムに参加した学生たちの間の競技や文化イベントなどもあるということ。当然、ガジャマダ大学の学生もいっしょになって参加する。こうことを発表したのは、国際担当副学長が付き添ってきた学生ボランティアで学長のお手伝いをしているMonica Yanuardaniさん。学長のお手伝いをするボランティアは10人だけですが、応募が多くて選べれるのは大変で、選ばれること自体がすごく誇りになるそうです。非常にしっかりした発表でしたが、休憩時間に聞いてみたら、学部4年だというのでびっくりしました。

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ガジャマダ大学の学長のお手伝いのボランティア Monica Yanuaradaniさん

共同指導の関係では、double degree, joint degree の関係も話題になりました。京都大学の渡部由紀助教からは、共同学位を進める際の障害のひとつとして、他大学で取得した単位を移せる上限が10単位であることなどの規制もあると重要な指摘をしてくれました。国際交流を進めるためには、大学だけでなくて政府もやるべきことはやらねばならないと考えていて、単位以降の上限も検討することになっているとコメントさせていただきました。

共同研究のセッションでは、ASEANの大学側からは、シンガポール国立大学、フィリピン大学から発表がありましたが、両者とも、国の強みとの関係で大学の使命は何であるか、自分の大学の強みは何かをはっきり打ち出す説明でした。シンガポール国立大学のvision, mission statementはとても印象的でした。visionは、towards a global knowledge enterprise で、missionは、 to transform the way people think and do things through education, research and serviceです。「教育、研究、サービスを通じて、人々の考え方、物事のなし方を変えていく」、すごく自信に満ち溢れているし、社会としっくり、しっかりした関係ができているのだろうなと感じました。

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シンガポール国立大学のvision, mission

このセッションでは、京都大学東南アジア研究所の河野泰之教授も発表されました。東南アジアや欧米から客員を呼んで広がりをもって研究を進めてきたこと、現地語の資料が多く収集されていて学問的価値があること、査読ジャーネルをずっと続けてきていて筆者がかなり学際的になってきていること、今後は自動的に翻訳される多言語、オンラインジャーナルを発行してこうとしていることなどでした。中身もありましたが、人間味溢れる、非常に正直、直裁なお話振りで、大変好感を持ちました。きっと各大学の代表のみなさんは東南アジア研というか河野先生にに非常に印象付けられたのではないかと思います。

2日目は、参加者が4つのテーマにわかれて議論して、それぞれの結果をもちより、行動計画までたどり着こうというものです。私は、香港でのGoing Global 2011での発表の準備などのため出られませんでしたが、一日目の状況からして、活発な議論が行われたものと推察します。

AUNは現在メンバーが20以上の大学に増えています。これを京都大学だけで相手にするのは大変でしょうし、他の大学にもAUNを通して東南アジアの大学と協力関係を拡大するのは、独自にパートナーを探したりするよりはるかに効率的なはずです。ぜひ、日本側もコンソーシアムを組むなどしていったらよいと思います。

とにもかくにも、「議論してるだけじゃなくて、実行しなければ」という強い意志をもっておられるNantana事務局長からの要請を受け、中身の濃いワークショップの開催に漕ぎ着けた京都大学の森教授、関係の先生方のご努力に心から敬意を表します。こういった経験などもグローバル30のネットワークなどを通じて広めていただき、他の大学の参考になるようにしていただければと思います。


2011年3月 8日 (火)

フィールド調査でどこへでも、バンコクの日本人留学生

京都大学とASEAN大学ネットワークのワークショップ"Building Academic Partnership through Collaboration and Exchange"に出席するため、バンコクに来ています。

きょうは、バンコクにいる日本人留学生との懇談。京都大学東南アジア研究所駐在員事務所の星川圭介先生、今回のワークショップの準備に当たってきた京都大学エネルギー科学研究科の園部太郎先生が、声をかけて集めてくださいました。7人来てくださいました。

多くは、地域研究をしている大学院生さんで、現地調査のためにこちらに来ているということ。水上マーケットの研究をしていて、バンコクからバスで片道3時間の海辺の町から来てくれた院生さんもいます。現地では水上マーケットの家に住み込ませてもらい、寝食をともにして調査しているそうです。その他にもバンコクから離れた地方で調査されている人が多かったです。調査の計画も独力で立てて、どこでも一人で分け入っていく行動力をお持ちです。

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みなさん、博士論文の研究の全体スケジュールの中で、どのタイミングで現地調査を入れるかに苦慮されているようでした。京都大学東南アジア研究所の柴山守教授も同席してくださいましたが、昔はこれはと思う学生には、現地に数年どっぷり漬からせて研究させたものだが、最近は早く博士を取らせたい、取りたいという、教員、院生双方の意志で、じっくり現地での研究が行いにくくなっているということでした。

奨学金、とくに民間財団からの給付制のものが大きな支えになっているいう声も多く聞かれました。大学の事務の方や先輩がそういう奨学金の存在を教えてくださるそうです。日本での修士課程時代にJASSOの貸与制の奨学金を借りて、今はオーストラリア国立大の博士課程に在学しながら自ら得た収入でJASSOの奨学金を返しているという院生さんもいらっしゃいました。ちなみに、オーストラリア国立大に必要な経費は、その大学の日本人卒業生が作った奨学金をいただいているそうです。得られるのは毎年一人という価値の高い奨学金です。

なお、奨学金やその他の資金援助の関係では、いろいろと考えさせらる、次のようなご意見をいただきました。
・日本からの留学生に支給する民間財団の奨学金は、応募資格が国内にいることとしているものが多い。海外に出てしまっていると申請できない。
日本学術振興会の特別研究員制度では、支給期間のうち海外にいていい期間が半分までで厳格に運用される。海外調査が多い研究生活だと、思う存分海外調査できない。
・仕分けの影響で、GPものから海外調査に使える予算が急減している。東南アジアは単価が低いから、まだなんとか来れるが、南米・中東などには行かれなくなっている。

また、外国の大学で博士課程を修了するような形で外国に出てしまうと、欧米ならまだしも、他の地域では出た先の大学のことが国内でよく知られていないなどで、帰国後のポストの競争で不利という意見もありました。

きょうは、そもそも海外に出ているし、しかもフィールドワークなどで、どこへでもずんずん入っていく積極的な学生さんからの話でしたが、諸制度が足かせになっているところもあるのではないかと感じさせられました。もっと海外に出て行くのを促進しようとするならば、こういうところの見直しも欠かせないと感じました。

さらに、日本の国費留学生の経験を持つタイの方も一人お見えになりました。日本留学経験者がタイ社会でどう活躍しているかを調査されいるそうですが、最近の日本への留学生は、学位をとるため勉強ばかりに専念し、日本社会を知らないで帰ってきていると懸念されていました。

このように、きょうも新しい側面に目を開かれた時間でした。みなさん、お忙しい中、お越しくださりありがとうございました。

なお、今日集まった皆さんはじめ、月に一回、タイに来ている留学生で集まり、どんな活動をしているか発表し合い意見交換する、「バンコク・タイ研究会」を開いているそうです。違う分野の人から意見をもらえるのが非常に有益ということでした。そうです、違う角度から同見えるかは大変重要です。さらに発展していくことをお祈りします。


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2011年1月29日 (土)

中国大使館が中国留学経験者を招き懇親会

1月24日、中国大使館教育部主催で、日本から中国への留学を経験した方々を招いて懇親会を開催した。来賓としてお招きいただいた。

このような催しは初めてとのこと。100人を超える留学経験者が集まり、大変結束力の強さを感じた。出席者の中には、近藤昭一衆議院議員・環境副大臣(北京語言学院に留学)、菊田真紀子衆議院議員・外務大臣政務官(黒竜江大学に留学)もお見えになり、ご挨拶をいただいた。

私は、僭越ながら、乾杯の音頭をお願いされ、このような会を初めて開催してくださった孫建明中国大使館公使参事官はじめ関係の館員の皆様にお礼申し上げ、最近の中国での日本人留学生の活動、とくに1月8日の日中成人式などに触れつつ、先輩留学生から現役留学生へのご支援をお願いした。

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写真提供:菊田真紀子外務大臣政務官秘書官 清水知足さま


みなさんと歓談中、突然携帯に、北京大学に留学中、北京日本人留学生社団の村松文也さんから電話が入った。村松さんは日中成人式をはじめ幾多の両国学生の友好行事の企画・推進に当たってきている。成人式が「大成功でした」と、きっぱり力強い言葉。試験も終わって一時帰国しているとのことだった。さらにその日の夜遅くには、成人式を終えての思いを綴った熱いメールが来た。村松さんの了解もいただいたので、別項で紹介したい。

さて、今回、中国留学経験者を集めるという初めての試みであったが、優に100人以上集まられた。一番早い時期に留学された方はは1976年頃。まさに中国が海外からの留学生を受け入れ始めたときだ。また、もっとも最近では昨年秋に交換留学から帰ってきたばかりという現役の学生さんも。昔留学された方でも帰国後、大使館の孫建明公使参事官(若い頃から、なんども東京勤務をされている)とコンタクトを絶やさず、また留学されていたときの日本人学生の間での絆が強く今も維持されていて、多くの方に連絡がついたということだった。みなさん、留学したのがつい昨日のことであるかのように、和気藹々と語り合っていた。

いつも申し上げているように、国と国の間のしっかりした友好関係には、トップだけの間柄ではなく、国民レベル、草の根レベルの友好関係が不可欠の土台。中国留学経験者のネットワークを、さらに多くの同期の方、年代をこえて、水平、垂直にさらに広げ、中国で築かれた中国の友人との関係も、時間が経とうとも、維持・強化していただけるよう期待したい。

2010年12月20日 (月)

九州大学-釜山大学の間ではこんな協力も

18日の九州大学韓国研究センターの10周年記念式典には、釜山大学のPark, Sung-Hoon 副総長(国際協力担当)も来賓の一人として駆けつけてくれた。

Park副総長は、日中韓大学間交流・連携推進委員会の大学間交流プログラム・ワーキンググループのメンバーでもある。10日に北京で開催された第2回日中韓大学間交流・連携推進委員会の会合にも随員として来ていた。そのときに、九大のこの行事にも来ると聞いていた。

Park副総長は記念シンポジウムで基調講演を行い、その中で、すでに釜山大学と九州大学の間で行われている教育の協力について、大変興味深い報告があった。

それは、釜山大-九大の共通科目というもの。

学部では数年前から、釜山大は「韓日関係の挑戦と未来(한일관계의 도전과 미래)」という科目で、九大は「日韓海峡圏の共通課題を考える」という科目で、両校間で教員を入れ替えて教えている。つまり、九大の教員が釜山大に行って釜山大の学生に、釜山大の教員が九大に来て九大の学生に教えるというもの。

大学院では、数学の位相学topologyの科目で、今期から始めたとのこと。

これによって、両大学の教員、学生の双方にいい緊張感が生まれているという。つまり、これに参加する教員は、両校の学生を比べられるし、また、これを受ける学生は両校の教員を比べることができるからだ。

他方、これは一種のチーム・ティーチングであり、当然ながら、参加する両大学の教員の間では、周到な協議・準備が必要だそうだ。そういうことで、この取り組みへの参加を躊躇する教員も多いとのこと。

Park副総長は、
・他の科目にもより広げていきたいが、この2つの科目のアウトカムを慎重に検討したい。
・日中韓のCAMPUS Asiaのパイロットプラグラム、さらには本格展開の重要なベースだと思っている。
と述べていた。

確かに、準備や、実際に同等の質を確保するのは大変だろうが、そのための協議をすることも含めて、教員、学生のグローバル感覚を磨くのにとても有効ではないかと思う。さらに、両校の学生が一同に会して、あるいはwebでつないで同時に授業に参加するなどして、両校の教員がチームになって教えるなどすれば、ますます刺激的な授業ができるのではないだろうか。このような先駆的な取り組みをしている九州大学、釜山大学に賛辞を送りたい。

Park副総長は、また、基調講演の中で、日中韓のCAMPUS Asia 構想のパイロットプログラムに応募するものとして、釜山大学、九州大学、上海交通大学の3校で環境・エネルギー分野の教育協力プロジェクトの検討を進めていることを明らかにした。これもどのような提案が出てくるか楽しみだ。

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中央がPark, Sung-Hoon 釜山大学副総長、左は倉知幸徳 九州大学理事・副学長

2010年12月19日 (日)

九州大学韓国研究センター10周年 松原孝俊教授の情熱とvisionで世界の韓国研究の中心に

18日、九州大学の韓国研究センターの開設10周年記念式典・シンポジウムに出席して、お祝いの挨拶をした。

今でこそ、慶應大学、東京大学にも現代韓国研究センターがあるが、実は、この九州大学に日本で初の韓国研究を専門に行うセンターが2000年に設立された。そのきっかけは、1998年韓国の国務総理であったキム・ジョンピル韓国国務総理(当時)が九州大学の名誉博士学位を受けられる際の特別講演「韓日関係の過去と未来」。その後、韓国国際交流財団からの支援もいただいて、設立・運営されてきた。

さらに、2005年には、UCLA Center for Korean StudiesJohn Duncan教授と協力し、環太平洋の8ヶ国の大学の韓国研究センターのコンソーシアムを立ち上げ、現在では、Oxfordなどヨーロッパの大学も入り、12ヶ国の世界韓国研究コンソーシアムの中心的存在となっている。九州の経済界からも強い支持を受けていて、福岡・釜山フォーラムと協働して地域連携の研究なども行っている。

記念式典・シンポジウムには、世界韓国研究コンソーシアムの議長を務めておられるDancan教授、姜尚中 東大現代韓国研究センター長、小此木政夫 慶應義塾大学現代韓国研究センター長なども参加し、このセンターが国内外の韓国研究のハブとして機能していることを印象付けた。また、福岡・釜山フォーラムの日本側議長を努められる石原進JR九州会長、川崎隆生西日本新聞社長など九州経済界からもハイレベルの出席があり、本センターへの期待の高さも伺わせた。

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九州大学韓国研究センターが、いかに有意義な活動を展開し、世界の韓国研究の中心的拠点になっているかは、Duncan教授が、お祝いの挨拶で端的に語っていた。2004年まで同教授のところには日本の韓国研究者からは全く連絡がなかったが、その年、このセンターの松原孝俊教授などから訪問したいと連絡があり、訪問した松原教授らが語ったのは韓国研究のコンソーシアムvision。アジア太平洋地域の次世代の韓国研究者を集め、連帯のつながりを築くという大変印象的なものだった。翌年Duncan教授は九州大学に客員教授として来訪し、韓国研究センターの質の高さ、教員・学生のコミットメントの強さに感銘を受けた。さらに、世界韓国研究コンソーシアム(第一段階はアジア太平洋地域の8大学のコンソーシアム)の立上げまで協力してしまった。その年には早速コンソーシアムが大学院生対象に第一回のワークショップを開催、参加した若手の間の連帯の絆と友情は今もって脈々と続いている。その後、ヨーロッパの大学も呼び込み12大学の世界コンソーシアムとなった。分野も当初は人文科学中心だったものが、社会科学も大いに入ってきた。大学院生がワークショップに出すペーパーの質もぐんぐん向上、世界の一流大学のPhD級だ。この5年間Duncan教授の学究生活は大変充実していたが、松原教授のvisionと勤勉がなければ、そうはならなかっただろう。九州大学韓国研究センターには、韓国研究の国際化、グローバル化を牽引していってほしい。

松原センター長は、センター設立時から一貫してセンターの専任研究者を努めてきて、本年4月第3代センター長に就任。本日の式典では、センターの次の10年は東アジア共同体の形成に寄与するのを主題として掲げた。シンポジウムも、日韓は東アジア共同体の形成にどう寄与するかということ。

シンポジウムでの議論をまとめると次のようなことでしょうか。
・民主化した韓国は、アジア諸国の中で日本にとっての真のパートナー。東アジア共同体を形成するのは日本だけでやるのでなく、韓国と協力して進めること。
・その際、ASEAN諸国も見ながら進まなければならない。また、日韓両国は米国との関係抜きにはやっていけないが、だからといって、「日韓米」対「中朝」というような新たな冷戦構造を作ってはならない。東アジア共同体は、中国とも、ともに作るという覚悟が必要。
・東アジア共同体は国ベースのものよりは個人ベースのものではないか。国境という線を越えて面的広がりでやっていくもの。まずは日韓両国民が互いに親近感を持つこと。これがなければ共同体はない。日韓関係で一番変わったのは、日本人の韓国に対する意識。学生交流などはさらに意識を変えていくのに有効。

シンポジウムの中で、Duncan教授は、九大に客員教授で来たときに、学生の態度が、大人とは違う開かれた心を持ってたことに感銘を受けたとしていた。さらに、日韓関係の将来は、若者たちにかかっている。彼らを教育する自分たちの役割も考え直さねばと言っていたのが印象的。また、キム・ジョンピル元韓国国務総理は九州大学での特別講演で、若者にこう呼びかけている。「韓日両国の青年は正直な歴史認識の土台の上に、お互いを真に理解し、真の友情と信頼を築いていかねばなりません。」大学間交流は、グローバル人材の育成、大学の国際競争力強化という狙いがあることは事実だし、そのために有効かつ不可欠の方策であるが、それだけでなく、日本と近隣諸国の間の未来志向の、これからを担う若者たちの間の友情と信頼(それがなければ国の間の友好関係もない)を築くというきわめて重要な役割があることを改めて銘記した日でした。

そして何よりも、九州大学韓国研究センターが内外の研究者はもとより地元経済からも高く評価されているのは、一貫してセンター専任で勤めてこられた松原孝俊教授の情熱とコミットメントの賜物だと思う。一層の発展をお祈りします。

2010年12月15日 (水)

日中友好は自分たちの手で 日中合同成人式に邁進する在北京日本人留学生たち

9日、北京大の日本人学生さんと、いくつかの日本の大学の北京事務所の人と懇談。前回10月時にも顔を出してくれた二人と、今回新たに1人来てくれた。

場所は、天安門から西に約1kmくらいかな? 近代的なビルが立ち並ぶ、なんとなく新宿っぽい「西単」という地区の裏路地の胡同にある手羽先焼き屋さん。店の名前は「西单翅酷」。北京に何箇所かあるチェイン店らしいが、ここのが一番人気だとか。

さて、来てくれた学生さんのうちの1人、北京大学で国際関係を勉強する村松文也さん。日本の高校を卒業し、日本で仕事をしてから北京大に入学したそうだ。現在2年生ながら、北京大日本人会会長を努め、おまけに、今年の秋には、彼も含め北京の各大学の日本人留学生代表で、北京日本人留学生社団 Beijing Japanese Students Association 通称ビジャッサを立ち上げた。これは、「北京各大学間を超えたネットワークを構築し、自らの五感で日中の相互理解促進のため、意義のある活動を企画し発信すること」を理念としている。

今回、彼から聞いたのは、来年1月8日に日中合同(「中」には台湾も!)成人式を行うべく奔走しているということ。中国にも成人式はあるが、文化は異なっている。そこで、合同成人式を行い、日中の新成人で相互理解を深めようというもの。また、日本からの留学生は、お正月で一時帰国したにしても、日本での成人式の頃は中国の大学で前期の試験が本格化する頃で中国に戻らなくてはいけなくて、一生に一度の成人式に出られない。それを救ってあげたいという思いもあるとのこと。

村松さんは、学業だけでなく、在北京各国の人たちで野球チームを作って対抗試合をやったりとか、extracarricular activities にモリモリ気持ちよく取り組んでいる。そういうことで、日本人だけでなく中国、各国の企業人などにもネットワークを広げていて、この日中合同成人式への支援集めなどに、授業の合間を縫って「会社訪問」していいる。

中国財界からも、日本留学経験があり支援してくれる人が見つかったとのこと。日本企業からも、現物提供、資金提供など、ご支援してくださる話がついていっているとのこと。また、在北京の日本のマスコミにも報道していただけないか働きかけているとのこと。翌日は大使館広報文化部に支援のお願いに行くと言っていた。

10月に彼らと話したときは、尖閣での問題で地方都市で反日デモが起こり始めていた。かれらは、そういうときだからこそ学生レベルではぶれずに日中友好を進めなくてはいけないと固い決意で、合同文化祭の企画などを進めていた。実際、かれらが学ぶ中国の大学の学生との間は何も問題ないとのこと。むしろ、中国の学生さんはかれらと接して、「本当の日本人がわかった。日本人のよさがわかった」と言うそうだ。

今回も彼らと話して、彼らなりに日中友好を進めようという一種の責務のようなものが感じられ、とても崇高な精神だと思った。また、中国の各界にも彼らを応援してくれる人がいる。日本の中高年の人たち、大学の先生たち、一般論で「今の大学生は...」などと言わずに、こういう学生さんにももっと目を向けようじゃありませんか。また、かれらの努力を応援しましょう。


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2010年12月12日 (日)

日中韓3国で新たな大学間交流、来年から開始で合意

10日、日本、中国、韓国の3カ国の間で、単位の互換などをきちんと織り込んだ、アジア世界に通用する人材を協働で育てる教育プログラムを展開していこうという構想を進める、政府レベルの第二回の会議が北京で開かれました。来年できるだけ早くパイロットプログラムを開始しようと合意したのが大きな収穫。会議結果のプレス発表はこちら

この会議のメンバーは、大学、産業界、大学教育の質保証機関のハイレベルの人からなっていて、日本はといえば、

安西 祐一郎 文科省参与、慶應義塾学事顧問(前塾長)、中教審大学分科会長が共同議長、他に、
濱田 純一 東大総長
寺嶋 実郎 日本総合研究所会長、多摩大学学長
中鉢 良治 ソニー副会長
平野 眞一 大学評価・学位授与機構長
磯田 文雄 文科省高等教育局長がメンバー

この構想は、もともと鳩山由紀夫前総理が昨年の日中韓サミットで提案したもの。中国、韓国からも歓迎され、ことしの4月には東京で第一回の会議が開かれ、CAMPUS Asia という構想が立ち上がった。レセプションには鳩山総理もお見えくださり、3カ国の学生に囲まれて挨拶いただき、また、乾杯後は、かれらとじっくり歓談していただけた。

第一回の会議の後、8月には東京で作業部会の会合を開き、来年にはパイロットプラグラムを開始することを念頭にでガイドラインの案などを検討して、このたび第二回の会議となったもの。

今回の会議では、ガイドライン案が大筋で認められるとともに、とにかく来年できるだけ早く、パイロットプログラムにとりかかろうと合意できたのが大きな成果だ。

会議の中での発言として、

・世界の動きは速い。とにかくパイロットプラグに早くとりかかり、やりながら改善・拡張しよう。

・パイロットプログラムの開始は、アジアも高等教育の人材育成に世界的リーダーシップをとるとかかげていく出発点だ。

・産業界とも連携して、出口戦略を明らかにして取り組んでいこう。

・日中韓3国が高等教育で本気で連携すれば、世界の課題の大部分を解決できる。アジアをリードし、世界をリードできる人材を育てていこう。

・日中韓で比較優位にある分野で連携してt、さらに国際的に強くしていこう。

など、前向きの意見がどっさりでした。(うれしい、うれしい)

この会議いいのは、へんな駆け引きとかなくて、本当に3国とも、大学の国際競争が急速に進んでおり、なにか始めないとアジアの大学が埋没していってしまうという危機感、あるいは、アジア、とりわけ日中韓3国の大学はその気になって連携すればもっと国際的にやれるはずだという強い期待をもって、各国委員が、素直にいいアイデアはとりいれていきましょうという気持ちで臨んでおられること。

会議後の中国教育部主催のディナーは、和気藹々、お互いのご苦労を本心で褒め称えあう、飾ったところのない、いい雰囲気でした。私は、中国側メンバーの一人、北大方正集団総裁の張兆東さんと白酒(コウリャンが原料の蒸留酒。アルコール度50度以上でした。)でカンペイ!の連続。
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4月に東京で第一回会議やったときに、飲兵衛は本能的に類を察するようで、そのときは、日本酒でカンペイ連続でした。今回も会場でお互いを見かけるなり、握手+hugで再開を喜んだのでありあました。

北京大学教育学院で、日本の大学改革について講演

9日、北京大学の教育学院で日本の大学改革について講演。ここの高等教育研究センターの馬万華 Ma Wnahua 所長からの依頼に応えたもの。馬センター長とは、10月の中国国際教育交流協会のEducation ExpoでのForum の International Students Mobolity に関するセッションでご一緒。

聞いてくれたのは、馬センター長の仲間の教員や院生のひとたち。日本の大学に短期間研究に行ってたことがあるという人も多かった。

日本の大学改革の話をするにあたっては、まず、日本の大学システムについてのfactから、説明に入るようにした。規模感、国公私の比率(大学数、学生数)、収入構造、国立大学法人化(特に第一期が終わっての検証結果、私立大学の経営状態など。その上で、機能分化、体系的教育、質保証、情報公開、国際化の5つのテーマで改革状況、今後の課題を説明。最後に学生の状況(経済的、就職)にも触れた。<講演資料はこちら>

資料の最後には、9月の日ロ学長会議で濱口名古屋大総長が行った基調講演に入っていた、Go Yoshida先生作成の" The World's Trends in Higher Education"も付けた。馬センター長はじめ皆さんから、「本当にその通りだ」と、大変高く評価されてました。

質疑を含めて、予定を30分以上上回る講演でした。皆さんの関心事としては、
・国立大学が法人化してどう変わったか

・最近の予算削減などで、教員の構成がどう変化しているか。有期雇用の教員が増えるとじっくりした研究をやらなくならないか。若手教員にばかり負荷がかかっていないか。

・自民党から民主党に政権が変わって自民党時代に始まったイニシアチブ(留学生30万人計画、Global 30など)は影響を受けていないか

・大学の情報公開は最近の政府系の情報公開一般に比べてどうか

・日本の大学は海外大学とのjoint vebtureにはどんな方針なのか
などでした。

就職に関しては、この春の最終内定率91.8%は就職氷河期以来2番目に悪いことも紹介したが、中国の68%に比べて、「そんなにいいの?」という反応でした。

今度は、中国からも誰か来て、大学をとりまく全体像の話をしてくれるとよいと思う。大学間交流をやっていく上では、質保証については最低でも必要だし、やはり大学を取り巻く全体像について相互理解深めておくことは重要だと思う。

聞いてくれた人の中には、馬センター長との研究仲間で、オーストラリアのメルボルン大学高等教育研究センター(Centre for the Study of Higher Education) のsimon Mariginson 教授もいらっしゃた。東大にもちょうど法人化の2004年に短期滞在したことあるとのんこと。最近は東アジアの大学を訪問して状況把握しているそうで、講演前に短時間お話したが、東アジア各国の高等教育・大学の状況を、それぞれone sentenseくらいでクリアーに性格づけしているのには驚いた。特に、ある国では、大学が非常な財政難で教員もろくに給与をもらえず、2-3件の兼職をしないと暮らしていけない状態で、惨憺たるものだとの話があった。そういうことは政府の行政官と話していても出てこない。こういう人を情報源に持つことも大事だ。


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